コーヒーテーブルがこの場所から始まった理由 #2 【浮かぶ情景】

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2014年の晩春。
街ゆく人々は薄手の長袖を羽織り、初夏の穏やかな風を遠くから感じる季節。
僕はお店をつくるための場所を探していました。

イメージが湧く物件になかなか出会えずにいると、かねてからお世話になっていた知人に「自分たちの事務所が入っているビルの1Fが空いている。もし興味があれば見にこない?」と連絡をもらいます。

「場所はどこですか?」

「上大川前通の三番町だよ」

「それ、どこでしたっけ?」

「本町通りから、一本信濃川寄りの通り」

「わかりました!行ってみます。(一体どこだ?)」

住所を聞いてもイマイチピンとこない場所に、とりあえず行ってみることに。

到着してみると、そこはマンションや住宅に囲まれた閑静なエリア。
周囲を見渡しても、飲食店らしきものは見当たらない。もはやお店らしいお店もほとんどない。
昔からある街並みと、そこに住む人たちの生活が広がる場所。

淡いベージュ色の背の高いマンションが遠い空を遮るように立ち、視線をずらすと、あやとりの糸のように電線が空を覆っている。その先にマンションや住宅の屋根に挟まれるようにして青い空が細く伸びていた。

朝は、出勤する若いサラリーマンがやや前傾姿勢で足早に歩き、近所の人がパジャマ姿でゴミを捨てにくる。ランドセルを担いだ小学生が大きな声を出し鬼ごっこをしながら学校へ向かい、川沿いの高級そうなマンションからは犬の散歩に出かける品の良い女性を見かけた。

これが、この街の日常なのか。

ここにカフェをつくる、そのイメージをほんの少し描いてみた。

前傾姿勢の急足なサラリーマンは、時間に余裕がなさそうに見える。
今時の小学生は毎朝カフェで「いつものやつ頂戴」とエスプレッソを嗜む、ようなことはない。(きっとこの先も)
近所の保育園に子どもを送った後に、ママさんたちが一息つきにきてくれるだろうか。
いや「主婦は朝から毎日忙しい」と知人のママさんが話していたことを思い出した。

ここにカフェをつくって、一体誰が足を運ぶのだろう?

不安を背に、空いている部屋の中に入ってみると、次の瞬間驚いた。

扉を開けた瞬間、その空っぽの部屋の中に活気あるカフェの情景が広がったんです。

入口を入って、正面でお客様を迎え入れる。
窓に沿うように客席が広がり、そこでは人々が楽しそうにコーヒー片手に談笑している。

店から溢れんばかりに漂うコーヒーの香り。
陶磁器のカップをソーサーに置く時の、音程が高い品のある音。
まるで湧水が滴るように、ドリップするコーヒーが滴る柔らかい液体の音。
焼き菓子が焼き上がった時の甘いバターの香りが、コーヒーの香りと織り重なり、その場で深い呼吸をしたくなるような雰囲気が、目の前の空っぽの部屋に投影することができた。

けど、即決はしませんでした。

僕は思慮深く物事を推し進める傾向を持ち合わせていたため、そこで見えた感動を一度落ち着け、家賃など細かい条件を精査した上で、最終的にこの場所に決めました。

そして何年かお店を続けたことで、やってみたからこそ、浮上して見えてきた一つの気づきがありました。

つづく。

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